ジェイテクトサーモシステム事例Rescale で誘導加熱解析の高速化・効率化を実現し、顧客の要請に即日対応可能に。

株式会社ジェイテクトサーモシステムは、自動車や半導体、太陽電池、通 信機器といった分野において熱処理装置を開発·製造するメーカーである。 1967 年に設立して以来、社会の変化や顧客ニーズに併せて、熱処理技術を 高度に進化させてきた。熱処理技術のエキスパートとして持続可能な社会 実現に貢献すべくビジネスを展開している。 同社では、顧客からの高度な性能への要求や、カーボンニュートラルや省 エネルギーなど環境問題に対応するため、温度制御技術や雰囲気制御技術、 解析技術に取り組んできた。中でも解析技術は、今後ますます検討範囲が 拡大し、大規模解析の必要性が高まる中、十分な計算リソースを確保する 手段の最適化やコスト低減が課題であった。

「Rescale のクラウド HPC 環境を導入し、計算リソー スやコストを最適化。十分なリソースを投入した計 算が行えるようになったことで、(実機の)試作回数· 実験回数が従来の 2 分の 1 以下になった」と株式会社ジェイテクトサーモシステム 商品開発部商品開発グループ工業加熱チーム 主任 中田氏はコメントする。


株式会社ジェイテクトサーモシステム
商品開発部商品開発グループ 工業加熱チーム 主任 中田綾香 氏

競争力のある製品の開発と開発スピードアップのために

ジェイテクトサーモシステムは産業機械の開発および製造・販売を担う、 奈良県天理市を拠点とする企業である。「サーモ(熱)」の名を冠する同社 が開発・製造する主力製品である加熱装置は、自動車や半導体、太陽電池、 通信機器などさまざまな分野で活躍し、我々の社会生活を支えている。

工業加熱分野においてヒートプロセスを担う、ジェイテクトサーモシステ ムの熱処理装置は、浸炭炉を始めとし、窒化炉、焼結炉、焼鈍炉、焼入炉 など幅広い方式の炉を備え、かつ連続処理にも対応する。

同社で、工業加熱装置の開発を行う、商品開発グループ工業加熱チームの チーム長である山本亮介氏は、「近年、市場や顧客において、カーボンニュー トラルや省エネルギー(省エネ)対応へのニーズが 急速に高まる中、当社としては、より競争力のある 製品の開発と、開発スピードアップが求められている」と、同社の熱処理装置の開発ついて語る。


株式会社ジェイテクトサーモシステム
商品開発部 商品開発グループ 工業加熱チーム チーム長 山本亮介 氏

ジェイテクトサーモシステムでは、現在、熱流体解析、構造解析、熱処理 解析、誘導加熱解析の 4 領域の解析、およびそれぞれの連携・連成解析を 実施。年間 60 案件(500 ケース)以上こなしている。装置構成から処理品 の熱処理品質予測まで、トータルで解析を行うことで、顧客ニーズに的確 で細やかに、かつスピード感をもって対応しているということだ。

「過去から理論に基づいた設計は行ってきたが、製品において温室効果ガス 低減や、電力消費低減などの難題を着実に乗り越えるためには、装置全体 の開発課題を見渡しながら、改善・改良をしていかなければならない。そ の上で、解析は必須の取り組みである」(山本氏)。

解析モデルの大規模化と計算時間がネックに

中田綾香氏は、同チームで熱処理装置の開発と実験、解析実務を担う。も ともと、実験解析グループ(解析専任)に 10 年間所属し、主に他部門から の依頼で、熱流体解析や誘導加熱解析をメインで行っていた。2 年前に現 在の工業加熱チームに異動し、解析に加え、熱処理プロセスの開発にも携 わるようになった。

現在、中田氏自身が主に携わるのが、同社の誘導加熱を用いた熱処理にお ける、電磁界と熱を連携させる誘導加熱解析である。誘導加熱とは、電磁 誘導の一種であり、コイルに高周波の電流を流すことで磁力線や渦電流を 発生させ、そこから熱を生み出す技術であり、同社の熱処理装置で用いて いる。

中田氏による誘導加熱解析では最近、被加熱物(処理品)と加熱コイルな ど加熱部品単体での現象を個別で捉えるだけではなく、それらが装置の中 に組み込まれた際の、周囲の部材や装置全体の影響まで考慮していくこと が増えたという。

かつては、加熱コイルも処理品も単純な軸対象モデルが多く、円周方向に カットした簡略化モデルで解析できていた。装置の適応範囲拡大に伴い、 モデルも扱う現象も複雑化してきたため、的確で素早い顧客への提案がま まならなくなってきたということだ。

現在、解析しているモデルは、要素数にしておよそ 100 ~ 500 万接点、最 大級のモデルでは 1000 万接点を超えるほどであるという。

中田氏は、そうした背景から「解析モデルが年々大規模化し、その計算時 間がネックとなっているため、高並列計算による効率化が必須である」と、 解析業務の課題について説明した。社内には 36 コアの小規模な計算マシン があったが、クラスタ構成のシステムではなかった。それで、求められている大規模な計算量を現実的な時間でこなすには限界があったため、並列 計算を処理させるための HPC(High-performance computing、高性能計算) クラスタの導入を検討し始めたということだ。

「しかし大規模なモデルを扱うような解析業務は、年間を通してずっとある わけではない。社内のオンプレミス環境で HPC クラスタを構築するとなる と、高額な導入費用や維持コストが課題であった」(中田氏)。

計算リソースがたくさん必要な時に、必要なだけ手配したいと考えた時、 社内に設置するオンプレミスの HPC クラスタではなく、クラウドの HPC クラスタが最適であると中田氏は考えたという。

しかし、顧客の機密データを扱う解析実務で、クラウドの環境を使用する ことに抵抗がなかったのかといえば、「当初はあった」と中田氏は答える。「社 内の情報システム部からも、『クラウドの環境で、セキュリティ面は本当に 問題ないのか』と心配された」。セキュリティについて万全であることも、 計算環境として非常に大事な要件である。

並列計算処理としてRescale HPCプラットフォームが選ばれた理由

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